生涯のうち約8割の方が腰痛を経験すると言われています。このように多くの方が経験している腰痛は「私も痛いから!」や「そのくらい我慢しなさい」などと軽視されがちな印象を持ちます。しかしその「腰痛」というワードは同じでも、症状の種類・痛みの程度・生活に支障をきたす程度も人それぞれです。当然ながらみなさん同じではありません。痛くて辛い人は笑えないくらい本当に辛いのです。
そこで腰痛に対してどのように介入することで予防または改善できるのかを考えてみたいと思います。介入方法は多岐に渡りますが、一考え方として機能解剖学的視点から、かつ椎間板性腰痛について考察していければと思います。
腰椎の解剖学
脊柱は頚椎から腰椎まで24個の脊椎で構成され、そのうち腰椎は5つの骨から構成されます。



矢状面 前額面 断面図
各椎骨間には椎間板という組織が存在し、脊柱に加わる衝撃を吸収し脊椎への応力負荷を減少させます。クッションのような存在と思っていただければ良いかと思います。

椎間板には水分が豊富に含まれており、中央には髄核というゼラチン状の組織があり、それをバウムクーヘンのように線維輪という線維軟骨が幾重にも取り巻くような構造をしています。
椎間板性腰痛の病態
基本的に正常な椎間板の内部には神経や血管は存在しないため、荷重や衝撃によって圧力が増加しても疼痛は生じません。しかし髄核内のプロテオグリカンが減少し水分含有量が減少すると、衝撃吸収機能が低下し、線維輪に微細損傷が生じやすくなってしまいます。負荷が繰り返されて損傷部位に炎症が生じると、損傷部位を修復しようと新たに血管や神経が椎間板内に侵入します。結果的にその神経が椎間板内圧の変化を感知して腰痛が生じることになります。
( ※ちなみにこの微細損傷を繰り返して線維輪から髄核が脊柱管内に突出した状態が椎間板ヘルニアです。 )
ここで重要になってくるのが椎間板内圧についてです。椎間板内圧は基本的に腰椎が屈曲位の状態で高くなり、立位より座位の方が高くなるというところが特徴です。この内圧が高まるせいで先程述べた神経は疼痛を感知し腰痛になるため、この内圧のコントロールが必須になってきます。もし損傷部位への物理的負荷がなくなり、コラーゲン産生によって損傷した線維輪が修復され炎症も消失すれば、神経組織も消退し治癒に至ることになるため腰痛も感じなくなることになるでしょう。
機能障害について
では理学療法としてどのように介入していけるのか考えてみたいと思います。
基本的に「腰椎が屈曲位(後弯位)になって椎間板内圧が高くならないようにする」ことを考えていきます。今回は腰椎に焦点を置いて考えてみます。
( ※胸郭や下肢など他部位の影響をかなり受けるので、そちらを忘れてはいけません。 )
腰椎の機能障害の可能性として下記のものが挙げられるかと思います。
① 腰椎(当該分節)の屈曲方向への過可動性(Hyper mobility)
→損傷している分節の上下の分節で屈曲制限が生じているため当該分節での過可動性が強制されている
② 腰椎の伸展制限
→腰椎の伸展制限のため常時屈曲位を強制されている
大きくこの2点が考えられると思います。この仮説を証明するためには腰椎の可動性評価を実施しなくてはいけません。評価方法は色々あると思いますが、僕は腰椎運動時の各棘突起間の動く量を確認するという方法を用いています。
腰椎は矢状面上の運動(屈曲伸展)で、上位腰椎よりも下位腰椎の方が大きく動くという構造的な特徴があり(L3/4よりもL4/5の方が大きく動きL2/3よりもL3/4の方が大きく動く)、この特徴を利用します。つまり腰椎の運動時に上位の分節と下位の分節が同等の運動量であれば下位腰椎の可動域制限があると考えます。
その他にもまだ腰椎の評価は必要ですが、今回はこの辺で終わりにしたいと思います。次回以降に腰椎の評価の続きや腰椎と他部位の関係性および評価治療方法について記事をかければと思います。
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