患者を悪くさせる治療者の特徴

刺激的な「患者を悪くさせる治療者の特徴」というタイトルのもと始まる今回の記事。
今回は緊張感を持ちながら執筆します。痛みでおなじみライターの三上です。

皆さんそれぞれ「理想の臨床像」を持っていることでしょう。

患者さんの力になりたいという思いは満場一致で、決して、患者さんにとって不利益となることはしたくないと思っていると思います。
だって、誰も患者を悪くさせる治療者になんてなりたくないですよね!

私自身も自戒の念を込めて書きます。
皆さんの臨床のためになることを祈って。

患者を悪くさせる治療者の特徴

①前医(セラピスト)の批判をする治療者

何度も繰り返しますが、痛みは単純な感覚体験ではありません。
感覚体験でもあり、感情体験でもあるのです。
まず知って欲しいのが「恨み」や「怒り」といった感情が「痛み」と繋がってしまうと、痛みの管理・対応が困難なものになりかねないということです。

例えば、先輩PTが後輩PTの患者さんを引き継いだ際に、後輩PTのアプローチが間違っていると患者さんに伝えてしまったら、患者さんの感情はどうなるでしょう?

患者さんはきっと、「これまでの取り組みは無駄だったのか!」と怒りを覚えてしまうのではないでしょうか。そして、「後輩PTのせいで…」なんてところまで考えが至ってしまうと、「自分の状態が思わしくないのは、後輩PTのせいだ。私の人生をどうしてくれるんだ。納得いかない!」という、「恨み」や「怒り」が「痛み」と紐付き、「痛み」そのものもそうですが、その人のQOLを大きく低下させてしまうのではないでしょうか。

今回の先輩PTは自分の優位性を示せて瞬間的に気持ちいいかもしれませんが、結果的に患者さんのQOLを低下させ、痛みの管理・対応を難渋させてしまう可能性を作ってしまっています。

もし、本当に後輩PTのアプローチが間違っているならば、そうなる前に職場全体で後輩PTをサポートしたり、随時フォローすることで、そもそも防げるはずです。自分のために患者さんを利用してはいけません。

②患者さんにセルフケアの意欲を失わせ自己管理をサポートしない治療者

「また痛くなったらどうしよう」という不安を感じられている患者さんは少なくありません。
痛み体験後の「こわい情報」や「ネガティブな感情」が「恐怖」や「不安」が「不活動」を招き、「抑うつ」や「身体機能低下」を招く、Fear avoidance modeal(恐怖回避思考)ですが、痛みの治療の目的は、このfear avoidance modelsに患者さんが陥らないようにすること、もし陥っている場合は早く脱出できるようにサポートすることです。

その道中で、患者さん自身が痛み体験に向き合い(曝露され)、認知や行動を変えていくことが求められます。そのため、自分で改善した(進歩した)感覚(=セルフケア)や、新たな出来事に遭遇した場合の考え方(コーピング)やその後の自己管理が重要になります。

いつまでも治療者が患者さんを依存的な状態にしてしまうと、このような要素は成熟するとは思えません。

これは、私が徒手療法と距離をとった理由のひとつでもあります。
徒手療法は基本的に患者さんが受け身の受動的な治療です。患者さん自身は、自分が良くなるために何かをしたという経験が培われません。あの先生に「治してもらった」という経験が残るのみです。それでは、セルフケアの意欲も自己管理能力も養われませんよね。

また、治療者が疾病利得を享受する(患者さんを依存させ、患者さんに頼られつづける自分を作る。自分を頼ってくれる患者さんは、自分にとって都合の良い行動をとってくれるケースがあるため、利害関係が出来上がってしまう。)ようなスタイルになると、それはもう何と言ったらいいか・・・

そんなのはやめましょうね!

③痛みに対する視野の狭い医学モデルに固執し、長期的プランもないまま一時的な鎮痛処置に重点を置く治療者

痛みを「生物医学モデル」のみにとらわれて診てしまうと陥りやすいかも知れません。
例えば、腰痛という症状の多くは1ヶ月程度で自然治癒すると言われています。腰痛においては、red flagやyellow flagと呼ばれる大切なチェックポイントがあります。なかでもyellow flagは要チェックです!

yellow  flagとは、いわば「腰痛を慢性化させやすいリスク因子」です。痛みへの恐怖心や診断名のインパクト、腰痛に対する不適切な信念(思いこみ)の形成、不適切な痛み行動、補償問題、家庭や仕事のストレス・問題など、まさに「心理・社会的要因」が並んでいます。

これは、痛みを「生物心理社会モデル」でとらえないと気づきにくいところかと思います。なぜなら、こういった「心理・社会的要因」は生物医学モデルでは大切にされていないため、家庭での過度なサポートはないか、会社での仕事内容や人間関係はどうか、などを気にも留めずに目を背けてしまうからです。

いつまでも「壊れた部品仮設」などで考え続け、それを患者にフィードバックし続けてしまうと、患者さんの中でまたしても「自分が痛みを感じている理由」を形成(信念)し、ある意味、自分が自分で患者であり続ける理由を生み出しかねません。

ここで私の実体験を紹介します。

ある日突然、腰痛を訴え始めたAさんがいました。
その方は施設に入所されている方で、「腰椎圧迫骨折」や「うつ病」といった既往歴を持っていました。

Aさんは整形外科に受診し、整形外科医からは「何も問題となる所見はない」と返答を受け戻ってきたようです。しかしその日からAさんは、施設内で寝返りや起き上がり、立ち上がり、車椅子移譲といった動作を行わなくなり、介助量が大きく増加しました。

そして私に相談が来ました。
「なんか腰が痛くなってから、全然動けなくて」と。

Aさんとは元々面識がありましたが、私に見せる表情はいつもと大きく変わりありませんでした。問診していくなかで、Aさんの訴えは変わらず「腰が痛くて動けない。」。
腰痛が増悪する姿勢も軽減する姿勢もなく、不眠の様子もありません。
比較的、私の前では疼痛の訴えはなく、基本動作も遂行可能でした。

しかし、「なにか変わったことがありましたか?」と聞いても、「なにもありませんよ。」と一点張りだったので、少し気になるところがありました。

私はその足で施設の職員にAさんの状態を報告しに向かいました。
「整形外科でも何ともないと言われたことや、できる能力に著変ないことなどから、なるべく今までと同じように、介助しすぎず過ごすことがいいと思いますよ。」
そして、気になることがあったので「最近、Aさんに何かありましたか?例えば、揉めたこととか、Aさんが不快になるようなこと。」と尋ねました。

すると、その職員は「1人の入居者にそんなに時間を割いてられない。」と言いはじめ、半ば八つ当たりのような内容を私にぶつけてきました。
「一体なにが始まったんだ?」と私も困惑しましたが傾聴を続けました。

すると、その職員はAさんのことが書かれていた日誌はしばらく目にしていなかったこと、Aさんが整形受診した経緯を全く知らなかったことがわかってきました。

「自分がわからないことを悟られないように何とか取り繕っていたのか?」と思いましたが、今後のアドバイスを伝えるために会話を続けました。

職員を責めることのないように「お忙しいのはお察しします。」と話を続け、「腰痛にはyellow flagという考えがあり、これは腰痛を長引かせてしまいかねない要因です。」yellow flagの実例をいくつか紹介し、「Aさんがこのまま活動量が減少し介助量が増大すると、Aさんにとっても施設としても望ましくない状況になってしまうことは避けましょうよ。」と今後の対応の仕方をアドバイスしました。

しかし、その職員は私の話に耳を傾ける余裕はなかったようで、一向に私の話を聞きませんでした。それだけならまだしも、捨て台詞のように「まだお若いからそうやって学会とかで発表できたらいいんでしょうね。慢性の痛みのことは私も知っていますから。」と吐き捨ててきました。

正直、その職員は会話が通じない状態でした。
これはまずいなーと感じていましたが、施設の方で「この状態ならリハビリは不可能」と謎の権限を振りかざされ、私がAさんと関わることはプツッと切られてしまいました。

その後、約2ヶ月経過し、Aさんは施設を退去し、別の施設に転居情報が入りました。
新しい施設に入居後、Aさんは前施設では行っていなかった起き上がりや車椅子移譲を自立して行うようになったようです。

そしてある日、突然、Aさんが私に謝罪の気持ちを伝言してきました。
「ごめんね。前の施設でね、職員にすごく嫌なことを言われたの。それから私は、絶対動いてやるもんか!とストライキを起こしていたの。あなたのことを利用してしまった部分もあって、本当にごめんなさいね。今はもう大丈夫。」と。

Aさんは全施設の職員に対して多くの恨みや怒りを抱えていたのです。

当時それを聞いて、「やっぱりか」という気持ちを抱いたのを覚えています。

前施設の職員が本当に痛みとは何かを知っていれば、または私のアドバイスに耳を傾けていれば、お互いにハッピーが結末を迎えられていたかも知れません。
結果的に前施設は入居者に選ばれない選択肢を選んでしまったことになりました。

そして、Aさんや施設にために本当の意味で力になれず、むしろ無理解によって遠ざけられた苦い体験です。

Aさんは「腰が痛い」ことを伝えたくてこんな行動を取ったのではありません。
「腰が痛い、動けない」フリまでして、伝えたいことがあったのではないでしょうか。
今回のケースでは、そういった因子を取り除くことができなかったため、前施設としては転居されてしまったのではないでしょうか。

痛みは単なる知覚ではありません。複雑な感覚・感情体験です。
そして、痛み行動に気を配らなければなりません。

心理社会的要因を無視して痛みを考えようとするとこうなるかも知れませんよ。
教訓のような体験でした。

以上になります。

今回の内容は、私の臨床経験や「急性腰痛と危険因子ガイド,2010」などを参考に作成しました。
それではまた!

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三上幸大

三上幸大

理学療法士/総合病院でICUや術後理学療法を経験後、整形外科クリニック、訪問を経験。「慢性の痛みに関する教育プログラム」を履修@山口大学/痛みの学習をしたいセラピスト向けに、痛みに関する知識や情報をお伝えします。

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三上幸大

理学療法士/総合病院でICUや術後理学療法を経験後、整形外科クリニック、訪問を経験。「慢性の痛みに関する教育プログラム」を履修@山口大学/痛みの学習をしたいセラピスト向けに、痛みに関する知識や情報をお伝えします。